MieMU「高畑勲展」行ってきました

三重県総合博物館にて「高畑勲展」を観てきました。
『ドラえもん』アニメ化を最初に企画したのが高畑さんだったとは知らなんだ。

そして多数の仕事のひとつひとつに、膨大に書き溜められたメモ。
企画意図、キャラに込めるべき人格、物語に至る背景、作品をこの時代に描く意味、ストーリーの要点、全キャラの感情の起伏を示すテンションチャート、絵コンテの元案(高畑さんはマルチョンしか描けない)などなど。
こんなに見せられては大抵の人は引くであろう、というくらいの量。

各作品の絵コンテもあり、『アルプスの少女ハイジ』の絵コンテに直筆で富野喜幸(現・富野由悠季)とあってアガる。

『かぐや姫の物語』は若い頃から企画だけ作ってあり、そこには、
「全てを知って知らぬふりをしているかぐや姫」
「竹細工職人の翁を主人公とし、かぐや姫を竹の精と見て育てる翁の目を通すことで、創作の美が作者を超えていく恐ろしさの象徴として描く」
といったアイデア案が書かれていて面白かった。

『赤毛のアン』では、アンを「痩せてギョロ目でオデコが出てソバカスの、それでいて将来知性ある美しい女性となることを予感させる造形」とし、それをどうデザインするか(作監の近藤喜文が)苦心惨憺する様や、
『母を訪ねて三千里』などでを周到にロケハンして舞台を(レイアウトの宮崎駿が)異常なまでに再現していることなど。

ただ『火垂るの墓』で節子の命が尽きるところ、最後に国鉄三ノ宮駅で清太と2人で手を取り合うところといった原画は勘弁してほしかった。つらすぎる。

こちらも2人がホタルと戯れているように見えて、実はその灯がB-29による空襲の焼夷弾であることは、ポスターでは暗すぎてよく分からないように処理してあるのだが、元絵ではくっきり描かれていました。

盟友・宮崎駿については『太陽の王子ホルス』で1スタッフだった頃からの、高畑同様に膨大なメモが並べてありました。
当時入社したばかりの原画マンがこんなの持ってきて、勝手にイメージボードを描きまくるのだから、さぞかし周囲の度肝を抜いたことでしょう。

そしてこの『ホルス』は製作が遅れに遅れて予算も大きく超過、演出(当時「監督」を「演出」と呼んだ)だった高畑は、どこを削っていつまでに完成させるかという始末書を書かされまくるわけですが、それを東映動画上層部の呼出書と共に展示してありました。
なのにその経緯の解説がないから、多くの人は「なんでこんなものを展示?」と思ったかもしれませんね。
いや、こんなの見に来るような奴には基本的知識なのかな。

また本展で特に言及はなかったが、宮崎が試写で落涙したという森康二による同作ヒロイン・ヒルダの表情とはこれか!と、原画で確認できた喜びも。

遺作となった『かぐや姫の物語』は、日本テレビ会長の氏家齊一郎が「俺が全て金を出す」として、結局50億円という制作費を費やしたわけだが、どこにそれだけかかったのか、これまで何となくの理解だったものが、少し具体的に分かりました。

高畑らが考案・完成させた共同制作体制やレイアウトシステムなど、日本のアニメーションに残した功績を分かりやすく構成し、非常に充実した展示内容でした。