戦争は女の顔をしていない

戦争は女の顔をしていない

『戦争は女の顔をしていない』

これはすごい本だ。衝撃だった。
第2次大戦のソ連で、飛行士、狙撃兵、看護師、洗濯部隊、機関士などとして前線にいた女性たちの物語。

「わたしは、戦線に行ったときまだ小さかったの。だから戦争中に背が伸びた」
 
「私は夫を葬るんじゃありません。恋を葬るんです」
 
「幸せって何かって訊かれる。殺された人ばかりが横たわる中に、生きている人が見つかること」

作中の台詞

原作はウクライナ出身のジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのもので、35年以上前に書かれた。彼女はノーベル文学賞作家でもある。
戦争体験者たちのインタビュー集だ。

そんなのをコミック化するというすごい企画だが、作画担当の小梅けいと氏は本来戦記にあまり向いているとは思えない絵柄で、だからこそその表現が胸を打つ。
これぞコミックの真価だ。
当時の景観、習慣、文化。「絵」はごまかせない。

奥付を見ると、編集は荻野謙太郎氏とある。経緯は全く知らないが、この手の本は作家ではなく、編集者から生まれる企画であることが多い。

以前、ある著名な方(編集者であり経営者)から直接聞いた。
誰が見ても売れる企画を売るなんて、良い編集者とは言えない。
良い編集者とは、まだ発掘されていない人や題材、逆に「もう終わった」と誰もが考える人や題材を新たな形でよみがえらせる仕事をする人だと。

この原作とこの作家を組み合わせた編集者さんは見事な仕事をしたと思う。

今年の新書大賞は岩波の『独ソ戦』が獲ったが、ソ連の大祖国戦争が今になって「来てる」のだろうか?

同じく独ソ戦を描いた傑作として、宮崎駿の『泥まみれの虎』もあわせてお勧めしたい。