15年越しの火星に捧げるデュエット

15年越しの火星に捧げるデュエット
この15年、ずっと古本屋を見つけるたびに飛び込んで捜していた本をついに見つけた。 それは筒井百々子の『火星に捧げるデュエット』というSF漫画で、もちろん絶版状態のため新刊などなく、古本も捜しても捜してもどこにもなく、不意に思い出して捜しては「ないな」と確認することを15年も続けて来た。 ところが、ふとAmazon.co.jpで検索すると、マーケットプレイスで売られている。 何て便利な世の中になったのだろう。当然購入した。

なぜ15年も捜していたのか?

話は1992年の年末にさかのぼる。 高校生の私は、紀伊國屋梅田店の店内をうろついていた。まだ一般人にとってインターネットなど存在せず、携帯電話すら誰も持ってない時代のことだ。 そこである一冊の本を買ってしまった。 それは『蓬莱学園の復刻』。 全く、何の予備知識もない状態で購入した。 通常ではちょっと考えられない。 名前も知らない、何の本かも判らない、まして安い本でもない(3500円)。 今、思い出しても、自分がなぜあの時この本が売られていた当時、全く興味のないTRPGコーナーに行き、この本を手に取り、レジに持っていったのか。 全くもって判らない。

蓬莱学園とは何か

遊演体という会社が1990年に行ったメールゲームの名称。 そして1年間に渡って開催されたゲームのために毎月発行された「蓬莱タイムズ」を12回収録したものが、「復刻」。 南海の孤島に存在する、学生数10万人の巨大学園。秘境あり、怪奇あり、マッドサイエンティストあり、軍事あり、恋愛あり、侍あり、銃士あり、宇宙ありの滅茶苦茶な世界観。『図書館戦争』は絶対、蓬莱学園の「旧図書館整頓隊」を元ネタにしているはず。 しかし自分がこの世界を見つけたとき、ゲームは既に終了していた。 見事にはまった私は周辺の文献を買いまくった。解説本、小説、漫画。 「復刻」には、世界設定に使用された参考文献一覧が掲載されていた。 ファンタジー、東洋古典文学、SF、政治学、民俗学、少女漫画、言語学、歴史学、生物学、オーパーツ。 分野のひろがりは異常で、当時高校生だった私は次から次にあらわれる「未知の知識」に興奮した。 「」は私にとって、いわば「ものすごく無駄で、とてつもなく面白いことをやたらめったら教えてくれる怪しいお兄さん」だった。 その参考文献の中の一冊で、これまで集めようにも集められず、失われたままになっていた一角が、件の「火星に捧げるデュエット」なのだった。 もしかしたら同好の士がいるのかもしれない。 参考文献一覧を以下に置く。

蓬莱学園参考文献

■基礎資料

物語の根本は「星を持った運命の者たちが集結する」ことであり、そうした発想のあらゆる物語は全て『水滸伝』が元ネタである。80年代の少年ジャンプは、そんな話ばかりだった。
運命によって結ばれた8人の勇士たちが、次々と不思議な事件に遭遇し、戦うことで出会っていく。蓬莱学園における「夢の8人」の元ネタ。 江戸時代の読本では男女を裏返してパロディを作るのが基本手法だった。そして八犬伝は8人が全員男であることから、蓬莱学園ではそれらが全て女とされた。
神仙の封印による世界再編成。蓬莱学園では「石」が重要な役割を担っている。石を使って宇宙をシミュレーションするという発想は、現代の囲碁にその痕跡を残している。 2万年の前の崑崙で作られた物理法則を突破した万能道具である(これを説明するため、作品では「C#理論」「K・O理論」といった数学理論も構築された)。また当時ようやく一般に流布するようになったパソコンの基本構造であるハードウェアにOSがあって、その上にアプリケーションとしてのソフトウェアが乗るという形がなぞられている。

神話伝説・民俗学資料

八犬伝に関する最良の研究書。
鎮西八郎為朝による冒険。日本の古典ファンタジー。源為朝が琉球に渡り、怪異をおさめてその子が琉球王国を建国して初代王となる壮大な物語。
仙人と幻獣についての元ネタ。体育祭の化け物はここから。他に赤松子、墨子など。
東洋ファンタジーとしての元ネタ。
東洋ファンタジーのネタ本2。逸話第364より、崑崙の「棚の上の石」が使われている。

文系資料

墨家思想と科学技術の関係について。
オーシャンロード仮説とファラオゲームの元ネタ。 本作での政治闘争は基本的にオーシャンロード(共存)とファラオゲーム(独裁)の衝突として描かれた。ファラオゲームとは、大多数の人間を宗教、文化、噂などで何かを信じ込ませ、熱中させ、考える時間を与えずに操り、動員し、その働いた結果を「自分の方が偉いから」と思い込ませることで全てかすめ取るシステムである。大多数の人間(駒)は、ファラオ(独裁者)に使われるわけだが、駒はファラオが何を目指しているのかさえ情報操作されるため、勝ちようがない。あらゆる法律はファラオゲームの前に膝を屈する。なぜならファラオは動員効率で他を圧倒するからである。人類の歴史とはすなわち、より優れたファラオゲームを目指す道のりだった。
本作では、南極の地下にある広大な地下空洞世界での冒険も、重要なエピソードとなっている。そこでは現代物理学で起こりえない法則(斥力の発生、時間経過の変化)に支配される。 ここでは、「互いに直行する三本の実数軸と一本の虚数軸で記述される偏微分方程式(物理系)の数値的解が取り得る値は、階層的に分布して全音階性を持つ」が、そこに半音階的な変調がもたらされたことで地下空洞が成立しているとされる。
地下空洞世界を描く前提として、本作では1930年に南極調査が行われたとされ、その際に起きた大惨事を示す文書が参加者に配布された(原文は全て英語)。これはE・A・ポオ、H・P・ラヴクラフト、J・ヴェルヌの描いた「南極もしくは火山から異世界に至る冒険」または「地球空洞説への傾倒」を元ネタとしている。
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理系資料

地球空洞説などを成立させるために、それらのエセ科学、疑似科学を撲滅するために書かれた解説本が逆に使われている。オーシャンロードとは最後の氷期で海面下だった大陸棚が露出し、地球の北部と南部が巨大なクーラーとなることで赤道付近にあらわれた人類の楽園のこと。東南アジア諸島は全てつながって巨大な大陸と化した。

その他資料

絶海の孤島に浮かぶ学園、SF、巨大生徒会、異世界での冒険などなど。
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