エセ募金活動
JR三ノ宮駅前で信号待ちしてたら、募金箱抱えたおっさんが目の前にやってきた。
「○○くんの肝臓移植に、募金をお願いします」
おっさんは左手に透明なパスタケースみたいなものを抱え、そこにお金を入れて欲しいという。
右手には、その○○くんについての説明書きを掲げているが、字が小さすぎて目をこらしても全然読めない。
普通はそんなのいちいち読まずに寄付するのかもしれないし、私だって普段だったら読もうとは思わないが、なぜかそれをじっくり見なければならない気がしたのであった。
するとおっさんは説明書きを微妙にずらし、反らせてくる。読めない。
そして一言。
「50円でええんやけど」
パスタケースには様々な硬貨で200~300円入っていた。
私は世の募金というものを全く無視する人間ではないし、かといって必ず寄付するほどでもない。
たぶん普通の人、だと思う。
たまに失明しているふりをして金をせびる人というのがいるが、まあ少しならいいかという程度の考えの持ち主である(完全バレバレの人に、ものすごく寒い夜だったので実際にお金をあげたこともある)。
しかし、このおっさん、何かおかしい。
何がおかしいのかは分からないんだけれども、強烈に違和感を感じるのである。
「50円でええんやけど」
おっさんは私の前を動かず、さっきと同じトーン、同じ声量で繰り返してきた。
格好はジャージ。厚手の靴下にサンダルを履いている。年は40~50代か。
「50円でええんやけど」
また同じ台詞。
一般的に、募金活動している人が説明書きを読もうとする人へのリアクションには、3つの選択肢があると思う。
- 募金対象(この場合、肝臓移植をしたい○○くん)が、なぜ募金を必要としているかを説明する
- 総額でいくら必要で、いつまでにそれを完了させなければならないか説明する
- 説明書きを読みやすい角度に調整する
しかしおっさんはただ、50円、としか言わなかった。
私は違和感の正体が知りたくて、首を曲げたり前屈みになったりして、説明書きを読もうとトライし続けた。
するとおっさんは、イラついた様子で私の前を去ってしまい、別の人に声をかけ始めた。
そして私の左後ろにいた大学生風の男の子に、録音された音声のように「50円でええんやけど」と言っていた。
すると数秒後、びっくりするような大声が聞こえた。
「バカにしてんのか!」
えっ、と思って振り返ると、財布を持った男の子が呆気にとられている。
おっさんはパスタケースをぶんぶん降って怒っていた。
「ほんまに50円入れるな! 100円ぐらい入れろ! バカにして!」
男の子は何か小声で抗議していた。たぶん、「じゃあ返せよ」とか何とか。
素直に出すくらいだから、彼はいい人だろう。だから抗議も控えめになってしまうのだ。
おっさんは舌打ちしながら、「うるさい!」と叫びながらその場を去っていった。
男の子は彼女連れだったらしく、隣の女の子に「なんなんだよ」と愚痴っていた。女の子もあまりのことに言葉を失っている様子だった。
50円と言われて、それくらいなら……と思ったのかもしれないし、たまたま小銭は50円しかなかったのかもしれない。
しかしあの年頃の男にとって、好きな異性の前で他人にコケにされるなど、あってはならないことだ。
こんな募金活動って、あるのだろうか。
あのおっさんは何だったんだろうか。
-
前の記事
文章を書く7つの法則 2018.09.12
-
次の記事
聞き間違い 2018.09.14