映画『少女たちの羅針盤』感想

映画『少女たちの羅針盤』感想

先月、映画「少女たちの羅針盤」を観てきました。
言いたいことがたくさんあるので、ネタバレ有りの感想を言います。
まず、あらすじ。

新進女優の舞利亜は、映画の撮影ため廃墟となったホテルに赴くが、撮影開始直前になっても脚本が届かず、ホテルの壁に不気味な落書きをされる。誰かが自分を陥れようとしていると感じた舞利亜は、4年前の高校時代、友人たちと結成した女子高生劇団「羅針盤」で起きた殺人事件を回想する。現在と過去が交錯しながら事件の真犯人が暴かれていく青春ミステリー。成海璃子、忽那汐里ら人気若手女優が共演。監督は「西の森の魔女が死んだ」の長崎俊一。

http://www.rashinban-movie.com/index.html

上映中、非常にハラハラしました。
おそらく20回くらい時計を見てしまった気がします。

というのも、いつまでたっても「謎」がはっきりしないのです。

この物語の「セントラルクエスチョン」は、4年前に仲間を殺したのは誰なのかという点です。
作品冒頭、廃墟を使って映画撮影が行われています。
そこでまず「4年前、劇団『羅針盤』の一員が殺された」という謎が提示されます。
ところがそこから、全部で2時間の尺しかないのに1時間30分ぐらいを青春劇に費やし、「誰が殺されたのか」を教えてくれません。

で、最後の30分で急にたたみかけるようにドタドタドターッと「殺されたのはこの人」「殺したのはこの人」とやります。
それまでの間、なぜ殺されなきゃいけないのか、という伏線もありませんでした。

しかし、謎とは関係ない「劇中劇シーン」がたっぷりあります。

つまり伝説の劇団「羅針盤」がいかに伝説となったか、という回想パートです。僕自身はそこが長すぎると思ったんですが、そういうのが好きな人もいるでしょう。この辺りは人それぞれだと思います。

ただ、その劇中劇を観た観客1000人あまりが感動のあまり、全員でスタンディングオベーションをします。
でも、そんなに大したものじゃありません。
何度か高校生の演劇を観てきた身としては、まあ、普通です。

その上、その「劇中劇」のラストで忽那汐里演じる「江嶋蘭」が何か絶叫するんですが、「ズルシチョッテンファー」みたいな意味不明のおたけびになっていて、ちょっとまぬけな感じがしました。
それで感動はないでしょう。普通は動揺するだけです。僕は動揺しました。

しかし犯人自体は最初から判明しています。
いきなり登場する女優「舞利亜」が犯人で、自分で「私が殺した」と独白してます。
ところが映画の画面上、舞利亜の顔は日活ロマンポルノのごとく絶妙に隠されていまして、その正体が判りません。
客に「誰なのだろう?」と思わせる仕掛けです。

で、彼女に話しかける映画監督役の前田健が「きみ、あの伝説の劇団、『羅針盤』の一員だったんだって?」と言う。
こちらとしては、「そうなの?」と少し観る気が起きてきます。
あんなに仲良くしてた女子高生4人組が、どうやったら殺し殺されなどという関係になってしまうのかと。

ここでネタバレ。
観る予定のある人は読まないでください。

彼女は「羅針盤の一員」ではありません。しかもその伏線を後出しで見せるという体たらく。
これはミスリードなんてものじゃない。
映画を観れば判りますが、前田健がこの台詞をいうことは、設定上ありえないのです。不可能ではないかもしれないが、常識では考えられません。
この矛盾は勘違いなんかじゃ済まされない、観客に対する安易なウソ、欺瞞です。

まぬけはしょうがないですが、欺瞞はいけません。

しかもこの話、4年前の事件を解決する物語なんですが、その種明かしを聞いてみたら4年も待つ必要が全くないんです。
大事な友達がとんでもない殺され方をして、その証拠もすぐに気づいていたのに4年間も何しとったんじゃいと言いたくなります。

観客は僕を含めて5人。
1人はずっと、あんなに暗い上映室でスポーツ新聞を読んでいました。
僕は映画を観ている時、面白くなってくると前に乗り出すか、うつむいて上目遣いにスクリーンを観る癖がある。
しかしこの作品は、座席に深く座ったまま、しっかり真正面で画面を観させていただきました。

いろいろ言いましたが、万人受けしないだけかもしれません。
ぜひ観に行って下さい。