のび太の南極カチコチ大冒険
映画初体験の息子と一緒に。
思えば僕自身の人生初映画も大長編ドラえもん第1作「のび太の恐竜」であり、感慨深いものがあった。
何せ息子にとっては生まれて初めての映画館だから、「もう帰る」と言われて途中で出ることも覚悟していた。
しかし息子は2時間じっと観て「楽しかった!」とニコニコ。
ありがとうドラえもん。
映画の内容は各所で言われた通り、下地が完全にH・P・ラヴクラフトの『狂気山脈』。
私は映画を観に行く前に、ちゃんと予習しておきました。
狂気山脈の元ネタは、エドガー・アラン・ポー『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』。
ポーが話の途中で書くのをやめてしまっていたのを、ラブクラフトが勝手に続きを書いた。それが狂気山脈である。
さらに、ラブクラフトとは別に、これまた勝手にヴェルヌも続編を書いている。それが『氷のスフィンクス』。
つまり狂気山脈と氷のスフィンクスは同時進行しているパラレルワールドということになる。
ひさしぶりに読んだが、やっぱり面白かったな。
さて。
南極の地下に「旧支配者」の遺跡があるという舞台設定だけでかなり興奮してくるが、上映開始とほぼ同時に名伏し難い敵(どうもニャルラトホテプっぽい)が登場する。
南極で出会うヒャッコイ博士のアイテムがスチームパンクなのは、ヴェルヌ『地底旅行』のリーデンブロック教授を彷彿とさせ、10万年の時空移動を介した伏線とその回収もお見事。
ドラえもんとのび太のブロマンスもある。
最初から最後までハラハラドキドキで、なんというか僕の大好物のフルコースという感じだった。
演出も、キャラクターのアクションとセリフががっちり一体化しており、下手な監督に多い「しゃべると物語が止まる」ことはなし。
ただ映画版のドラえもんは割と無鉄砲なところがある。
途中の「どこでもドアを忘れてきちゃった」には、おいドラァ!!と思った(笑)。
ドラえもんだけ10万年前の世界に取り残されてしまったのもおいおい!と。
子供の頃はなんとも思わなかったが、今になって大人目線で観ていると、前半の遺跡到着までに普通なら全滅してるな、と思う。
もっと言えば序盤、日本に漂着した氷山内部につくりあげたジェットコースターが崩壊した時点で「おしまい」かな(笑)。
あれも、あんな危険なところまで氷を掘り進めたのは、のび太じゃなくてドラえもんだったな……。
ラスボスは、巨神兵(ナウシカ)とデイダラボッチ(もののけ姫)からの明確なインスパイア。
パンフレットによると脚本・監督の高橋氏はジブリ出身。
本作は『この世界の片隅に』『君の名は。』に次ぐ、ジブリ解散によって生まれた傑作ということなのかもしれない。
エンディングは平井堅。
ここで「のび太の宇宙小戦争」に使われた武田鉄矢『少年期』レベルの楽曲が来てたら冷静でいられた自信がないが、それは欲張りすぎかな。
とにかく面白かった。
ちなみに「名伏し難い(なふしがたい)」は本来なら「名状し難い(めいじょうしがたい)」だが、クトゥルフ神話ではこれで合っておりますので、念のため。
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