乳幼児連れのパリ旅行13(5日め・朝のエッフェル塔周辺)

エッフェル塔に向かう

5日めの朝である。
もう習慣化してきたが、アパルトマンから徒歩30秒のところに「Proxi」という小さなスーパーがあった。
そこで食材を買って朝食をすませた。
 

24時間営業じゃないコンビニみたいな感じ


この日は、エッフェル塔に登ってみる。
最寄り駅からはC号線「シャン・ド・マルス・トゥール・エッフェル駅(Champs de Mars Tour Eiffel)」で降りる。
 

駅を出ると大きな塔がデーンと見えているので、そちらの方向を目指して歩く。
塔のたもとは公園になっていて、早朝の空気が大変気持ちよい。

エッフェル塔に登るのは年中無休、朝9:30から夜23:00まで。
夏期(6月中旬から8月末まで)は9:00〜24:00だ。
入場料はない。ただしエレベーターを使うなら有料だ。
 

デーンと見えるエッフェル塔
塔の手前にメリーゴーランドがある


入口では、またもや手荷物検査。
パリは世界一観光客が訪れる街だが、以前のデータでエッフェル塔はそんなパリの中でも観光客が集まる人気ランク第3位であった(1位はノートルダム寺院、2位はモンマルトル・サクレクール寺院)。
現在はノートルダム寺院が火災により閉鎖されているため、2位に繰り上がっているだろう。

とにかくそれだけ人がやってくる場所だから、テロ対策なども厳しい。
 

手荷物検査の待機列は大混雑

検査は数列に分かれていて、一番端がベビーカーや車椅子のある人専用。すごく空いている。
下の子がベビーカーに乗っているのでありがたく利用させてもらった。

手荷物は金属探知機を通ってOKではなく、開けて中身をしっかり見せねばならない。
 

ベビーカーがあるので、一番端の空いている専用列に行く


検査をすぎて「よーし、塔にのぼるぞー」と思って塔の下まで来てびっくり。
今度はチケット購入待ちの長大な行列である。

実はeチケットで予約もできるのだが、この日は1週間前から既に予約分が売り切れになっていた。

エッフェル塔公式サイト(日本語)
https://www.toureiffel.paris/jp
 

ものすごい行列


これはすごい。ヴェルサイユ宮殿のときより列が長い。
ヴェルサイユはパリから離れており、ここまで来たらもう引き返せない、並ぶしかないという気分であった。

しかしエッフェル塔は、ちょっとがんばれば宿泊しているアパルトマンから歩いてでも行ける距離だ。
ここで私は考えた。

エラン・ビタール!

かつてフランス陸軍大学では、必ずベルグソン哲学に言う「エラン・ビタール(Elan Vital)」という概念を学んだ。
直訳すると「生命の衝動」だが、授業で言いたいことはちょっと違う。
実際は難解で、当時かなりの生徒が授業に出られなくなってしまうほどだったらしい。ちょうどいい訳語は見当たらず、一般的には「攻撃至上主義」くらいで捉えられている。

なぜ「かつて」かと言うと、この概念が「損害を考慮しない」という精神につながり、第一次大戦緒戦で古式ゆかしき突撃を繰り返した結果、膨大な数の若者の命を当時最新兵器であったマシンガンによって奪われてしまったからである。
第一次大戦の前にフランスが経験した大戦は、それより100年以上昔のナポレオン戦争であった。

同じく日本の帝国陸軍でも、作戦要務令に「指揮の基礎をなすものは実に指揮官の決心なり」とある。
いわゆる「決心」という概念で、行動するなら迷うなと言っている。
これもまた日本軍に独断専行という悪しき伝統を生み出し、満州での暴走などにつながった。

何の話をしているのかというと、エッフェル塔の下でチケットを買う長大な行列に並びながら、私はこのエランや決心のことを考えていたのであった。
いずれも失敗した戦訓ではあるが、だからといって考え方そのものまで間違っているわけではない。
私たちの日常生活でも、ふとした時に「どうしよう、どちらにしよう」と迷う間にチャンスを失ってしまうことがある。

しかしパリでの時間は限られている。
(ここまで来てしまったしな。とりあえずもう少し様子を見て並んでみよう)
などと考えていていいだろうか。
これではダメだと思えば「守り」に入らず、すぐさま別行動に出る決断をすべきだろう。

決心、そしてシャン・ド・マルス公園へ

エッフェル塔の大行列に並ぶことは即刻やめにし、シャン・ド・マルス公園へと移動することにした。
子供たちは「広い場所だ!」と認識すると、即座に走り出すものらしい。
 

走り回る2人。向こうに見えるのはアンヴァリッド


子供が妙なポーズで走るので「何それ?」と尋ねたところ、「僕の考えた奥義、エッフェル走り」というものらしい。
上段に腕をかまえ、シャキーンとトランスフォームして走る。
なんじゃそれと思っていたら、下の子も真似をしていた。なるほど、わからん。
 

奥義エッフェル走り
エッフェル走りの真似
子供に撮ってもらった写真。タイミングが合わず目をつぶってしまった(ちなみに隣の妻も目をつぶっている)


さて写真を見てお分かりの通り、シャン・ド・マルス公園はエッフェル塔のすぐ隣である。

マルスと言えば、『沈黙の艦隊』でベネット大統領が海江田と国連で対峙したとき、「マルスよ、私はこの男と話がしたい」と心中でつぶやくシーンがある。

マルスとはローマ神話における戦と農耕の神のことだ。このシーンは農耕のことを言っているわけではないから、軍神の意味である。
その記憶があり、平和な感じの公園と軍神が結びつかない。

調べるとやはり軍神で間違いなく、ここは元々は陸軍士官学校の練兵場で「軍神の野」を意味するシャン・ド・マルスと名付けられたらしい。
元練兵場といえば、日本の代々木公園も元は陸軍のそれだ。日本にしろヨーロッパにしろ、そういう時代があったのだ。

詳しくはこちらを。
「帝都」東京を散歩する

クレール通り

さて、シャン・ド・マルス公園を出てクレール通りに行く。なんというか「いい感じの小売店」が並ぶ通りである。
地図で見ると、大体このあたり。エコール・ミリテール(陸軍士官学校)駅の近く。
 

クレール通り


こちらには、創業1761年の「ア・ラ・メール・ド・ファミーユ(À la Mère de Famille)」という菓子店がある。
1761年というと日本では江戸時代。

2日めに行った「ストレー」が1730年創業で、その頃の日本は暴れん坊将軍こと徳川吉宗が健在だった頃である。それよりは新しく、1761年というと将軍でいえば徳川家治の時代だ。自分で書いていてピンと来ないが……。

さておき、妻がそこでお土産のチョコレートを買いたいという。
しかし子供たちは公園で散々勝手に走り回って、今度は勝手に「疲れた、休みたい」と連呼している。困ったやつらだ。

ということで、妻だけが買い物に行き、我々は通りに面したカフェで休むことにした。
ウェイターは、こちらの注文が飲み物だけと知るや、あからさまに不機嫌だった。ま、いいか。店名は忘れた。
 

オープンカフェでふんぞりかえる我が子

おまけ:トイレ事情

パリは日本のコンビニのように、いざというとき飛び込めるトイレがなかなかない。
あの広大で観光客だらけのヴェルサイユ宮殿ですら、正門前に用意されているトイレが一箇所しかなく、私は男性用しか見ていないので分からないが2人分しかなかった。

ではパリの街中はどうか。一応、無料の公衆トイレはある。
 

クレール通りの近くにあった無料公衆トイレ


写真のようなトイレがパリ市内に400箇所設置されている(写真のトイレは24時間使用可能だが、場所によって異なる)。
この図体で、男女共用の1人用。

……が、我が家では一度も使わなかった。
話によるとこのトイレは恐るべき「初見殺し」だからである。

というのも、扉のランプが緑色なら入れるのだが、便座はない。空気椅子状態で使えということだ。
またトイレットペーパーがあるかどうかは運次第。
そして洗浄ボタンを押してもそのときは流れず、トイレを出てから流れ出す。知らないとかなり焦るだろう。

最大の罠は、トイレを出て自動扉が閉まるまでに10秒ほどのタイムラグがあり、閉まってからトイレ全体に水をぶっかける自動洗浄が始まること。
この清掃には2〜3分かかる。

つまり自分がトイレを待っていて、先に中にいた人が出てきたからといって、すぐに入ってはいけないのだ。
入ってしまうと扉が閉まってトイレに閉じ込められ、水をぶっかけられてびしょ濡れになるという恐怖の仕様なのである。
なんと恐ろしい……と身震いした私たちは、お店などや博物館などトイレを使えるタイミングがあれば必ず、無理矢理にでも子供にトイレをすませるよう促し、この無料公衆トイレは使わずにすんだのであった。

エッフェル塔には後ほど再チェレンジする。
(つづく)

総目次

01 0日め(準備)
02 1日め(出発)
03 1日め(シャルル・ド・ゴール空港でロストバゲージ)
04 1日め(買い出し……モノプリ、エリック・カイザーなど)
05 2日め(凱旋門・シャンゼリゼ通り)
06 2日め(セーヌ川散策〜夜のルーヴル)
07 3日め(オルセー美術館)
08 3日め(サント・シャペル)
09 3日め(バトー・ムーシュ)
10 4日め(ラスパイユ)
11 4日め(ヴェルサイユ宮殿)
12 4日め(チュイルリー公園)
13 5日め(シャン・ド・マルス公園、クレール通り)
14 5日め(アンヴァリッド、ソルボンヌ大学)
15 5日め(進化史大陳列館)
16 5日め(サンシュルピス教会〜夜のエッフェル塔)
17 6日め(最終日の買い物)
18 レストランケイ(Restaurant KEI)の話