第一次世界大戦はなぜ起こったか

第一次世界大戦はなぜ起こったか

第一次世界大戦はなぜ起こったか。
明日、11月11日は第一次大戦が休戦した記念日。この戦争はGreat Warと呼ばれ、1914~1918年の4年間続きました。
現在もはっきりと「これが一番の原因」という結論が出ておらず、非常に複雑で、なおかつ非常に単純かつバカらしいとさえ言えるところに原因が「いろいろあった」とされます。

開戦前、1914年のヨーロッパ

1、そもそも無理なドイツ帝国の戦争計画

第一次大戦の主要当事国(ドイツ・オーストリア VS フランス・ロシア・イギリス)には各国それぞれ「戦争が始まったら、こういう風に兵士を動員しよう」という事前計画がありました。

ドイツの計画は「シュリーフェン・プラン」と呼ばれるもので、ドイツ軍主力(8分の7)はベルギーを踏みつぶしてフランスに突入、反時計回りに回転してパリを包囲撃滅。
さらにそのまま東に転進してドイツを横断、西進してくるロシアと対峙するというもので、後世から見ればめちゃくちゃなものでした。

そしてこの計画は「ロシアの動員速度は遅い」という前提で成り立っていて、その時間差は49日と見積もられていました。
ドイツのプランの最大の問題点は、とにかく時間との戦いであったこと。
つまり外交進捗や政治的判断と関係なく、フランスなりロシアなりの開戦の兆候があると見るや、自動的に戦争システムが発動してしまうことです。

本来はドイツの意思があっての戦争計画であるにもかかわらず、ドイツは「おまえらのせいで俺たちは計画発動するんだ。おまえたちさえちゃんとしてれば、俺たちはこんなことしないですむんだ」という逆ギレのような立場になるわけです。
さらに計画はフランスが49日以上抵抗すれば破綻、またそれ以上の速度でロシアが迫ればこれまた破綻というもので、実際の戦争ではどちらもドイツの目論見が外れました。

2、セルビア王国の政府中枢に侵入したテロ思想

教科書で習う「第一次大戦の原因」は、セルビア青年によるオーストリア皇太子暗殺がその原因とされていると思います。
このセルビア青年たちが所属していたのが、「ブラックハンド(黒手組)」というテログループです。
これにはセルビア政府幹部が多数在籍しており、その首魁アピス(蜂の意)の正体はセルビア陸軍情報局長でした。
その思想は「大セルビア主義」であり、二重帝国南部のセルビア語住民の地域を奪取すべく、安易なテロ工作に走ったのでした。

ここでセルビアを助けるべくロシアが動きます。
なぜロシアが動くかというと、その伏線は日本です。
ロシアは日露戦争に勝利できなかった。それすなわち太平洋側への不凍港を手に入れられなかったということ。
太平洋側がふさがった以上、ロシアは地中海に出るしかありません。
黒海からトルコ帝国の脇を抜けていくルートは死守せねばならない。
そんな場所に二重帝国の手をのばさせるわけには行かん、というわけです。

で、セルビアを保護するロシアと、暗殺されて怒り心頭のオーストリアが衝突。
ロシアが動けばドイツが自動的に戦争発動というわけで、当然ロシア支援のためにフランス出陣、仏露支援のためにイギリス参戦というわけで戦争のドミノ倒しが始まりました。

3、オーストリア=ハンガリー二重帝国の判断ミス

当時のオーストリア宰相ベルヒトルトは、おそらく実戦となるのは対セルビア局地戦のみで、他はブラフ(脅し)だと思っていたふしがあります。
そもそも彼には、過去2回のバルカン戦争で外交に失敗し、大恥をかいてしまった伏線があります。
メッテルニヒやアンドラーシ、エーレンタールといったオーストリアの華麗なる策謀家たちの序列に自分も加わるためには、ここで一発キメておきたい。
ビビらせれば、ロシアは屈服する。するはず。してくれ。そんな風に思ったのかもしれません。

しかし駆け引きは失敗。チキンゲームは破綻しました。
ちなみにセルビア首都ベオグラードは、早々に「無防備都市宣言」を発します。しかしオーストリア軍は宣言を無視して攻撃開始しました。
そしてセルビア軍は南部から首都奪回を期して戦闘を開始しています。
ですからこの場合、「無防備都市」は戦争回避に何の役にもたっていません。

4、ドイツ帝国・ロシア帝国の情報伝達不備

開戦直前の深夜、ドイツ皇帝がロシア皇帝に電報を送ります。
「このままだと戦争になっちゃうよ」という内容です。
しかしロシア皇帝ニコライ二世は悪い意味で人がよく、深夜スタッフをたたき起こして緊急会議をひらくことができませんでした。
結局ひとり夜の宮殿で悩むしかなく、判断が遅れました。
さらにドイツ皇帝の寝所もポツダムにあり、電報がベルリンに届くと車に乗せて運ばねばならない(まだ電話線がひかれていなかった)。
ここでまた時間ロス。

5、五大国のそれぞれの同盟関係で起きた戦争のドミノ倒し

中央同盟VS三国協商。
その中核がドイツとフランスです。これをお互いの視点で見ると、
フランス側:ドイツが攻めてきたら、背後からロシアに攻めてもらう。ドイツがロシアを攻めれば、自分たちが背後から襲う。
ドイツ側:フランスが攻めてきたら、オーストリアが南から襲う。ロシアが攻めてきたら、ドイツが叩く。
これらの運動がほぼ同時に開始されてしまいました。

6、古い戦争思想と新しい武器の衝突

開戦当初、例えばフランス軍の軍装はこんな感じです。

これはまだサーベル持った騎兵集団が突撃していたような、つまりナポレオン戦争の名残(第一次大戦の100年前)のようなもの。
ところが実際に登場したのは、マシンガンや地雷です。
こんな真っ赤なズボン(パンタロン・ルージュ)で走るなど、「撃ってください」と言うようなもの。
しかし兵士は走らざるをえない。
最も悲惨だった「ソンムの戦い」では、イギリス軍の初日だけで、戦死者2万弱、負傷者6万弱の被害を出しました(ちなみに日露戦争・旅順攻防戦の日本側死傷者は、7ケ月間で6万人)。
今でもソンムに行くと、見渡す限りえんえんと続く墓標を見ることができます。

昔ながらの突撃をするたびにマシンガンにやられ、しかしそれ以外の突破方法がない。
お互いにどんどん消耗して、あっという間に戦線は膠着し、地獄のような塹壕戦が始まります。
一日で何千何万もの命を犠牲にしながら、お互いに得られる戦果は数メートルの前進のみ。
その状況が、浸透戦術(ブルシロフ戦術、フーチェル戦術)の登場まで続きました。

このことは直接的な開戦原因ではないように見えます。
しかし当時、誰もが1914年の夏に始まったこの戦争を「クリスマスまでに終わる」と思っていました。
そして遠い過去の戦争体験から、さほど死者も出ないと感じていました。
このことが開戦へのブレーキをゆるめ、人々を国家の英雄へと駆り立て、その世論が政府を押し流してしまったと言えます。

7、お互いの戦争計画が、鉄道の時刻表でまるわかりだった

当時の大量輸送は鉄道のみです。宣戦布告に先立っての動員令が出れば、国民は最寄りの決められた場所に出頭、列車に乗って集結地に向かいます。
そこで訓練をしてから戦地に向かう。
つまり鉄道は「各都市→集結地→戦地」という一方向に効率よく動くように組み合わされます。
すると敵国にひとりスパイを送って、兵士が乗った列車の動く方向を見れば、どの戦地に動員されるかがまるわかりなわけです。

例えばドイツのスパイがロシアに潜入して駅に立っていれば、ロシア軍主力が向かうのはドイツ方面なのかオーストリア方面なのかが判るというわけ。
原因をもっと書き込んでいくと、他にもいろいろあると思います。

つまり、「これといって、ひとつに絞れない」わけです。

開戦への経緯についてはこちらでも詳述しています → 隣国を「こらしめる」外交は友好なのか。

第一次大戦
:記述にいろいろ問題はありますが、ウェブ上ではここ以上に「読める」場所はないと思います。
The Empire That Was Russia
:カラー写真の帝政ロシア。当時の最先端技術で撮影しています。
Mediatheque de l’architecture et du patrimoine
:こちらは主にフランスの写真。
An Ambassadors Memoirs – Maurice Paleologue
:開戦当時、フランスの駐ロシア大使であったパレオログの日記。彼の目を通した、ロシア皇帝ニコライ二世(及び外務大臣サゾーノフ)の開戦意思の形成過程を読むことができます。
■参考図書
私が持ってるもので、思い出せた分だけですが。
History of World War I
:洋書です。A.J.P.Taylorによる編集。写真が豊富で見やすいです。
図説第一次世界大戦 <上>

学習研究社 ¥ 2,100
待望の第一次世界大戦本

図説第一次世界大戦 <下>

学習研究社 ¥ 2,100
現代の戦争を語るには避けて通れない筈ですよね。

歴史群像 2009年 02月号「カンブレー1917」

学習研究社 ¥ 1,000

歴史群像 2009年 04月号「アミアン1918」

死闘の海―第一次世界大戦海戦史

三野 正洋, 古清水 政夫 ¥ 1,680
第一次世界大戦はおもしろい!

帝政末期のロシア

アンリ トロワイヤ, Henri Troyat, 福住 誠 ¥ 2,625
主人公と共に・・・

ニコライ二世とアレクサンドラ皇后―ロシア最後の皇帝一家の悲劇

ロバート・K. マッシー, Robert K. Massie, 佐藤 俊二 ¥ 3,059
感情的でなく、分かりやすく丁寧なかきかたです
有名な本
皇室の滅亡

西部戦線異状なし (新潮文庫)

レマルク, Erich Maria Remarque, 秦 豊吉 ¥ 700
新訳で読んでみたい
戦場の若者
ユーモラスだけど非情な戦争文学
すぐれた娯楽作でもある
反戦意識をさらに強固なものとした本

西部戦線異状なし [DVD]

エリッヒ・マリア・レマルク ¥ 3,675
少年兵の古典的映画
In-depth look war and peoples attitudes.
ただひたすらに兵士は哀しい
反戦映画の傑作

:僕が持ってるのはVHSビデオですが。さすがに売ってもなければ、これからVHSで見ようという人もいないでしょう。
■直接の関係はないけど……というもの
飛行艇時代―映画『紅の豚』原作

宮崎 駿 ¥ 1,890
んー
いちジブリファンの感想
ポルコ大好き!フォルゴーレ号大好き!

:大戦後の名残ということで。当時の南欧の雰囲気とか。
天使 (文春文庫)

佐藤 亜紀 ¥ 620
やはり、稀に見る完成度を誇る傑作
電子辞書を握り締めて徹夜で読了
非常に面白く、非常に不親切な小説
難解だがとても面白い小説
天才の業績にひれ伏す。

:超能力バトル。舞台が第一次大戦ウィーン。
明石工作