企業社史の制作について

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社史に何を書くべきなのか?

企業社史は、その会社が歩んできたストーリーであり、成功や挫折、成長の過程が綴られた貴重な資料です。
さらに言えば、社史とは企業が社会で価値を提供し、長期にわたり存在し続けるための重要な要素です。
なぜそう言えるのか。

現在、日本には存続100年以上の企業が約3万7,000社存在し、中でも存続200年以上の企業は1,340社に限られます。
これらの企業は、時代の変化に適応し、自社の文化、理念、理想を継承しながら生き残ってきました。

環境に合わせて「自らを変化」させながら、それでいて自らの存在の継続を目的とする。
それが組織というものの姿なのでしょう。

つまり社史を制作する際に大切なのは、単なる自慢話や成功体験を並べるのではありません。
企業の存在意義、持続可能性、経済的な貢献など、これまでに起きた変化の歴史と変わらない考え、そして将来に向けた展望を含むものであるべきということです。

社史制作時の重要な検討事項

とはいえ、社史制作には、企業が長く保持してきた資料を読み解き、整理し、体系づける作業が必要です。
時には、企業が公にしたくない情報や隠された事実が含まれることもあるでしょう。
そんな部分を単に隠して(あるいは飛ばして)おくとどうなるか。

今現在は、隠した情報が記述の矛盾点となっても、口伝えに説明できる「経緯を知る人」がいるかもしれません。ただし、そんな人々もいずれ会社を去ります。
いずれ遠くない後世、読む人を混乱させるだけでなく「こういうことだったんじゃないか」と全く異なる忖度を生んでしまい、あるいは誰かが濡れ衣を着せられる結果にもなりかねません。

しかし、物事には必ず「事情」があります。
隠したい物事も、そこに至る意志決定や経営環境、人間関係などの事情のプロセスを明快にすれば、プロのライターであれば誰も傷つけず、核心となる要点だけを歴史として残すライティングができるでしょう。
逆に言えば、「聞いてそのまま書くだけ」の人はプロとは言えません。

社史は、公にする部分と非公開にすべき部分があります。
特に、社長のプライベートな事柄や企業の内部情報は一般に公開すべきではありません。
また社員が考えている「情報」が正確でないこともあります。
経営陣の意図と、実際の社員の行動に違いが発生することもあります。
それらをどう社史に反映させるかは、十分な検討が必要でしょう。

社史に含まれる教訓

社史を制作する際には、実際の原稿に含まれる情報は限られています。
ただ創業者が活躍し、会社を成長させた時期に焦点を当てることは魅力的です。
その過程には数々の試練と失敗が含まれ、その経験は今後の貴重な教訓となるでしょう。
なぜなら、そこには大抵の場合、会社の「理念」へ至るプロセスが含まれているからです。

理念のない企業は成長が難しいと言われます。
もちろん理念などなくても、どんどん成長していく会社はあります。

しかし問題は順風な時ではありません。時には、業界全体を揺るがす逆風が吹くこともあります。
近年であれば、中古車販売業界での某大手企業における詐欺行為、また芸能界での某事務所の性加害問題などが与える影響は長く尾を引くものとなるでしょう。
そんな時、業界を去って行くのは、実は「業績が悪かった会社」だけではありません。組織を貫く理念がないために「業績が順調だったのに自壊した組織」もたくさん含まれるのです。

苦しい時に組織全体で結束を保つ。
それが理念の持つ役割であることは、多くの経営者が知り、実感する事実です。

プロのライティングによって生まれる共感

結局のところ、企業は経営陣や社長のパーソナリティーに多大な影響を受けます。
ほとんど無意識に、社長のコミュニケーションスタイルや姿勢が全社員の意欲や協力度に影響を与えるからです。

しかし属人的な社風を一貫させるのが「理念」です。
一見「形だけ」のように見えて、多くの企業が本気で理念を浸透させようと努力するのは、実は永続を願う企業にとって理念がとても大切なものだからです。

形だけに見える理念に、人々の共感と感動を呼び覚まし、各人の行動に影響を与えるものにまで昇華させる。
これこそが社史の持つ役割の一つであり、その制作にはプロの出番があると考えています。